端麗に潜む秘密
「」
「ん、何」
ああ、まただ。夜の気配がしんと広まる部屋のなか、読書をしてい
ると突如として熱いものがあたしを襲った。それは彼の唇で、その
たびにそこが溶けそうになるくらい熱い唇だった。体が傾くのを抑
えられないほどの力でのしかかる蓮の、お風呂あがりで湿った肌は
吸いつくようにしてその熱をよこした。体全部と、唇から何度も何
度も際限なく運ばれる吐息は楽しむかのようなふくんだ笑みを孕み
あたしの体温をあげていく。
ひと際ながくあたたかな唇が押し当てられたとき、観念したあたし
は読んでいた本を置いて彼の頭を抱きしめて、そのまま押し倒す。
吃驚する蓮をよそにその肩をシーツへおしつけた。覆い被さるよう
にしてのぞきこむと、黄金色の瞳を右往左往とさせ落ち着かない様
子でいた。とびきり甘い声で名前を呼ぶ、
「蓮」
「や、やめろ」
「どうして?自分からきたくせに」
そう言うと蓮は短い唸り声をあげて目尻を下げた。そんな彼がたま
らなく愛おしく思えてその額や頬、鼻の頭に唇をおしつける。いつ
も勝ち気な態度で仕掛けてきてはあたしをとろとろにしてしまうく
せに、脇をつつけばあっという間に、ほら、彼の瞳もとろとろにな
ってしまっている。
「蓮はいい匂い、」
胸に頬を預け、猫みたいにすり寄れば耳にひどく乱れた蓮の心音が
届いた。目を上げれば浅い呼吸をくりかえす彼。その瞳は腕で覆い
隠されていて見ることはできないけれど、耳までほんのり色づいて
いる。
「…どきどきしてる?疲れた?」
「っ、黙れ」
そんな風で言われたって、むしろよけいに構いたくなるのがあたし
の悪いくせだ。額にかかる髪をかきあげてもう一度唇をおしつけた
ら、そのまま頭を抱きしめる。すると胸のあたりできつく縛られて
いた腕がほどけ、その腕が背中へ這うのを感じた。蓮の熱くて大き
な手。指先から伝わる体温はまるで赤ん坊みたいにやわらかくて、
あたしの体はそわそわしてしまう。
「今夜は、寝かせはせんからな」
「蓮もね」
きっと明日の朝までどうしたってはなしてはもらえない。あたしも
はなすつもりはないし、それを望んでしまっているから。
(暴けばとろりとあふれだす)
...written by おと様...
(ありがとうございます!)